八木清作品展 「Silat Naalagaq〜世界に耳を澄ます」
とても素晴らしいプラチナパラジウムプリントだった。八木さんは15年以上にわたってグリーンランドやアラスカなどの厳寒地を撮影し続けている。写真集の「sila」を見た時に印刷の美しさに衝撃を受けて、いつかは実際のプラチナプリントを見てみたいと思っていた。念願かなってというのは大げさかもしれないが、ようやくP.G.I.で企画展が開催され観賞することができた。
八木さんご本人も在廊されていて、これはチャンスとばかりにほぼプリント一枚一枚に素人丸出しの質問を投げかけ、それに丁寧に答えて頂いた。
プリントについてはどれも素晴らしかったが、一枚選ぶとするならば氷河を俯瞰で撮った一枚だ。距離感やスケール感が全くといって無いのがかえって面白かった。正直ほしい一枚だ。
お話で一番驚いたのはイヌイットがほぼクリスチャンだったということ。ロシア正教会の影響を受けてのことらしい。ロシアとアラスカは海を隔てながらも近しい間柄だ。影響を受けていない方がおかしいかもしれない。それでも何となくのイメージで民族ならではの宗教や信仰が息づいているものとばかり思っていた。もちろん風習として何某か伝承されていることはあるだろう。それでもお墓には八端十字架が立ち並んでいた。
キリスト教が入る前だとされるお墓の写真もあった。地面に亡骸を寝かせ岩を積んだだけのものだ。土葬の風習もなく横たえるだけだったらしく、ほとんどの場合、オオカミなどの動物に荒らされてしまうらしい。建造物址は発掘されても、人骨が見つかることはまれだそうだ。初めてと言っていいくらいに、イヌイットに思いを馳せたひと時だった。
この宗教にまつわるお話が、その夜聞きに行った津田直さんのトークイベントにも偶然共通した。非常に興味深い流れだった。
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