渡部敏哉 展【THROUGH THE FROZEN WINDOW 】@POETIC SCAPE

シベリア鉄道の車窓越しのイメージが静かに語りかける。幾重にも重なる18年前の記憶。

送られてきたDMを見てからというもの、FBのタイムラインに時折出てくるイメージを見るにつれ、予感はあった。

「あ、これ、きっと好きなやつだ」

展示を見る前から、既にプリントを買おうと決めていた。それも九割九分。そのくらいの期待感があった。

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18年前。渡部氏が北海道への転勤をきっかけに、近い存在になった旧ソ連。友人を誘いシベリア鉄道に乗ってロンドンへ行く計画を立てる。寝台車両で過ごす時間は退屈で、サロンの展望席でただひたすらシャッターを押し続けた。凍り付いた車窓越しに淡々と外の風景を収めていく。

帰国後もまとまったシリーズとして一切発表されること無く18年の月日が過ぎていく。本人にとってネガのイメージ、プリントのイメージだけが記憶に定着し、旅の記録は、旅でも日常でも無い何かの記憶へとすり替わっていった。

凍り付いた窓越しに写る景色は、白く光る氷の結晶や半融した滴によってじわりと滲み、その曖昧な記憶とシンクロしていくように見える。時間の積み重なり。イメージのレイヤー性。渡部氏とつかず離れずの関係性が、誰の物でも無く、誰の物にもなるイメージになっている。窓越しという一定の距離感と、上書きされていく記憶という曖昧な要素が重なり、不思議なイメージが客観性を持って展開される。そんな感覚になった。

プリントのフィニッシュも素晴らしい。本当に素晴らしかった。そしてプリントのセレクトから額装、シークエンス。どれをとっても完成度の高い展示になっていると思う。作家とギャラリストのセンスが絶妙にブレンドされている。

さて、タカザワケンジ氏とのクロストークも楽しみ。窓越し対談は果たしてどうなるだろうか。