渡辺大祐さんの作品は初めて。というか名前すら知らない写真家だった。でも予感めいたものがあって、まず見てみたいと思い、足を運んだ。
予感的中。これは面白い写真家に出会えた。
ギャラリーはスタジオ35分。この日は写真研究家の小林美香さんとのトークショーだった。トークは爆笑と驚きと感動の嵐に。ここんところ体験していない盛り上がりを見せた。トーク終了後も余韻冷めやらぬ感じで、じっくりと展示を見つつ、作家と居合わせた人との会話が弾んだ。
さて、作品について触れておくと、タイトル通り、ひたすらトイレットペーパーを撮り続けているシリーズだ。厳密に言うと、トイレットペーパーだけでなく、ホルダーにセットされている状態、もしくはトイレットペーパーが個室にある空間を撮っている。
今回は1,000枚のトイレットペーパーの写真を展示している。ピンナップでグリッドに並べられた約500枚と、ホルダーからカラカラ流れ出たトイレットペーパーのように、約500枚のプリントを数珠繋ぎにしたり、床に撒いたりしたインスタレーション。それに大判のプリントが2点の構成だ。
撮影期間は2002年から2004年と2012年から現在まで。約7年間の記録だ。前期はすべてフィルムで撮影され、後期はデジタルに移行している。展示でいうとグリッドの方が全てデジタルで、インスタレーションの方が全てフィルムになる。
中断の理由はある出来事が原因だ。ある日、いつも通りフィルムで撮影していたら、個室から漏れるシャッターとローディングの音が建物の関係者に怪しまれたことがあったそうだ。それ以来、フィルムでの撮影はやりにくくなったとのこと。04年にコンパクトデジカメを手に入れてからは、シャッター音もOFFにできるようになり、晴れて撮影を再開している。
別に悪いことをしているわけではないんだけど、妙な後ろめたさもつきまとう。そこにフェティッシュな、スケベな空気が漂う。本人はいたってフラットに撮ってはいるが、そんな雰囲気は否めない。
デジタルの方のグリッドに目がいく。なんとなく見ているうちに、自然と細部に引き込まれていく。見るが観るに変わる。バリエーションの多さに驚く。収集する写真は型やクセが見えてくるものだが、渡辺さんの写真には型が見えてこない。
「写真家たるもの、一生撮り続けられるものがないといけないなぁと思って。おじいちゃんになっても撮っていられたら」
穏やかな笑顔の奥に、確固たる写真家としての強さを感じた。