冬青で開催中のバス・ウィルダース「Stay」を観賞した。
とてもパーソナルな視点の作品だった。年老いた母親が住まう家の中の写真。カメラを煩わしそうにしながら写る母親。その合間には流しのフライパン、庭先の花、シワの寄った布や衣類、雑貨ともゴミともつかない細かなもの。母親の生活を形成している家の中の物と事がストーリーを紡いでいる。
バス氏はオランダの大学で教鞭を振るい、アートの振興、後進の育成に努めていると聞く。近年は冬青と提携して日本の作家発掘にも力を注いでいる。
そんな意欲的な活動をする息子から見れば、母の居場所はあまりにも小さな世界で、何故こんなところで留まっていられるのか理解に苦しむのだろう。なんとかしてあげたいと思ってしまう。しかし、母にしてみれば息子の気遣いは大きなお世話なのだ。この小さな世界が母親の全てであり、今の息子の価値観では計れない母親の生活がある。
それでも息子は母を想い続けることはやめないし、やめようがない。ジレンマを抱えながらも、母の居場所を、今の生き方を受け入れようと、丹念に家の中を写真におさめる。小さな世界の小さな変化に静かに目を向けている。
親の老いに直面した時に、子は大きな変化を求められる。パーソナルな視点ではあるけれど、とても普遍的なテーマだと思う。
バス氏とは残念ながら未だに面識がなく、肩書だけが先行していた感があった。しかし作家としてのバス氏を見た時に、その人となりが少しだけわかったような気がした。
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