井津さんの作品はツァイトの展示以来で、その時は貴重な銀塩作品だった。今回は真骨頂のプラチナプリントの個展ということもあり、とても楽しみにしていた。バウハウスでのプラチナ作品の衝撃は今でもおぼえている。
コニカミノルタプラザは新宿高野ビルの4階にあるけど、フルーツ高野を抜けてエレベーターまでのわずかな時間が、いつも気まずい感じになるのは私だけだろうか。かといってGUCCIのフロアを通り抜ける勇気もない。あの導線はどうにかならないのかな。
さて、肝心の展示の話に。
4階のフロアに入ったとたん、いつものコニミノじゃない雰囲気を感じた。凛とした空気。でもそれは緊張をよぶものではなくて、むしろ心が静まって穏やかになっていく感じだった。メインの大きな看板以外、これといった演出はしていないようだった。でもこの感じなんだろう?
展示スペースへ向かう。今回はギャラリーBとCのふたつのスペースを使っての展示だった。順路入口の右脇でショートムービーが上映されていた。井津さん率いる撮影隊のドキュメンタリーだ。そこは後回しにして、まずはプリントを観ることに。
最初の1枚。次に2枚目。そして3枚目。嘆息…。言葉にならない。つきなみな褒め言葉では形容できない。それほど井津建郎さんのプラチナプリントは圧倒的な存在感を放っていた。会場の空気がいつもと違うと感じたのもうなずける。
ゆっくりと1枚ずつ堪能したいと思いながらも、次のプリントも早く観てみたいと気が急いてしまう。相容れない思いをなだめながら順に観賞した。それを3巡、4巡と繰り返す。14×20インチの密着焼きのプラチナプリントの立体感と連続階調に、ただただ惹きこまれた。
民族衣装の「キラ」を羽織るブータンの人たちがとても美しい。瞳に力強さを宿しながら、どこまでもやさしげで、どこまでも謙虚さにあふれている。あのワンチュク国王の姿もあった。2011年に国王が日本に外遊されたのは記憶に新しい。気品に満ち溢れた立ち居振る舞いをテレビで見ただけでも、その人柄がうかがえた。井津さんのプラチナプリントの写しだされた国王は、さらにその人格、風格がよく現れているように感じた。
ライフワークとなっている「聖地」への想いが、あますことなくプリントに封じ込められているようだ。井津建郎さんのプラチナプリントは、まさに高純度の白金そのもの。研ぎ澄まされた1枚は言語を超えてあらゆる人に伝わる気がした。
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