もうそろそろ期待を裏切ってくれても一向にかまわないのに、腹が立つくらい裏切ってくれない。もがけばもがくほどはまっていく底なし沼。歩けど走れどたどり着けないワンダーランド。野村浩という作家の真骨頂だ。今回も野村浩にしてやられました。
タイトルは【Doppelopment】。「Dopplganger(ドッペルゲンガー)」と「Development(現像)」の造語。意訳して「ドッペル現像」っていうのもいい。愛娘の双子(笑)のハナちゃんとナナちゃんの写真の仕掛けも絶妙で、見どころ満載の作品だった。参加した大森克己さんとのトークがもう最高。少なくとも今年一番ではなかったかと思うほどの面白さだった。野村さんの「写真の旨味」発言から端を発して、爆笑と驚嘆、納得の連続だった。自身が二卵性双生児であること。大森克己さんとの出会い。東京藝大での榎倉康二氏との出会い。平面への興味と意識。写真新世紀からの歩み。エキスドラの誕生。なぜ写真なのか。拡散しないハッシュタグなどなど。もういろいろありすぎて見出しだけでもはみ出しそうだ。
野村さんはこれまで一貫して「見る」こと、「見えていること」へ問いを投げかけている。表現方法やアウトプットが多種多様なので、掴みどころのないように思えるが、芯の部分は変わらない。多重的に多層的にしかけつつ、種と仕掛けの先にある核心に迫っていく。核心に迫っていくようでいて、さらに解釈が広がっていく。特に今展では、野村さん自身が仕掛けていたはずなのに、実は誰かに仕掛けられていたんじゃないかと錯覚するほど、作家である野村さんが驚くエピソードがいくつもあり、SNSを通じて伝え聞くたびにこちらも驚いた。
必然と偶然が入り混じることでさらなる拡張を見せた【Doppelopment】。野村さんは写真家というくくりでは量れない。ただし、美術家、芸術家というくくりでも何かもったいない。牛腸茂雄を見事に引用したことからも分かるように、存外、野村浩は写真寄りなのだ。
ここまで野村浩を絶賛しておいて申し訳ないが、トークショー後の「妹」ハナちゃんによる写真集へのサイン会で主役の座を追われることになる。一人ひとりに即興でイラストを描いてもらえたのだが、下書きもあたりも付けず、一発で淀みなくペンを運ぶ描きっぷりに一同度肝を抜かれ、その場から離れられなくなってしまった。一筆一筆に「おー」と歓声が上がり、予想を超える仕上がりにほれぼれする。間近で見ることができて本当に幸せだった。
写真の旨味、存分に堪能させてもらいました。
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