少しさかのぼって、9月に銅版画家の濱野絵美さんの個展に伺った。今のところ、銅版画作品を所有している唯一の作家さんだ。場所は「Open Letter」という土日限定オープンのギャラリーで、今年の5月に渋谷から末広町駅の3331アーツ千代田に場所を移していた。2年前の初個展も同ギャラリーのこけら落としだった。ちょうど版画にも興味が向いていた頃で、タイミングよく濱野さんの作品を見ることができた。まったくの初めてではあったものの、見れば見るほど興味がわき、気に入った一枚を求めた。それから2年が経ち、2度目の個展でどのようになっているのか楽しみにしていた。
濱野さんの銅版画はエッチング技法で製作されている。青インクを基調色として用い、線の集積によるストイックな幾何学的模様が特徴だ。その執念ともいえる作業とは裏腹に、アルシュ紙に定着した青い線分はどこまでも目に優しく届いてくる。ずっと飽きることなく見ていられる作品だ。
今回の新作は線による幾何学模様をさらに掘り下げながら、大型作品に取り組んだり、新たな形態にも挑戦したりしていた。平面的な模様から、より立体的な形に再構築したイメージが含まれていて、まるで三次元座標上で線分が踊っているようなイメージもあった。
藝大を卒業後、社会人として製作と仕事の両立に葛藤しながらも、製作環境を整えつつ、限られた時間で新たな作品に取り組み始めている。作家活動を続けるうえで、誰しもが一度ならず何度も通る道だろう。それでも濱野さんはなんとか踏ん張って地道に活動を続けていくと思っている。そんな期待を込めて、今回も購入を決めた。
版画の世界も奥深く、写真とはまた違った魅力を持った表現方法だ。それでいて意外なほど技法的なプロセスが写真のそれとよく似ている。作品と作家の間に機械や道具が介在するという意味でも共通するし、写真好き、もっと言えばプリント好きならば版画も面白味を感じてもらえると思う。密かに、あと5年以内に版画技法ないし版画作品が再評価されて、ファインアートの表舞台に出てくるのではと見込んでいるのだ。
コメントを投稿するにはログインしてください。