Somewhere not Here ― ここではない、どこか別の場所。まさにという展示だった。非日常を超えた非現実の世界。淡く美しいイメージの中に、不穏で不安定で、おぞましさすら感じる世界観が宿っている。「ここ」寄りなのか、「どこか」寄りなのか。何かがやってくるとか、あっち側へ誘われるとか。そんな気配を含んでいるのだ。
白と黒の配分が受ける印象を変える。個人的には黒の比率が多いのは「こちら」で、白の配分が多いのは「あちら」という印象を受けた。人によっては見立てが逆転するかもしれない。スクエアの中央にあるものが白か黒でもまた変わってくる。どちら寄りでもないイーブンな比率だと境界を彷徨うような感覚になる。
この世界観を築く上で額装も見逃せない。細身の黒フレームにマットなし、低反射アクリルのかぶせで仕上げており、「ここではない、どこか別の場所」を覗き込ませる装置になっている。
例えとして相応しいかわからないが、渡部さんの作り出すイメージは、どこか囲碁の棋譜を想起させた。高い実力を備えたプロ棋士同士が、緩着も悪手もなく互角に打ちまわし、半目差勝負を繰り広げたような美しい棋譜だ。
「Somewhere not Here」はまだはじめの一歩を踏み出したという感じ。セレクト、プリントサイズや展示方法などを変えることで大きく印象が変わる可能性がある。「Thereafter」と対極をなすシリーズとして育っていくのが楽しみな展示だった。
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