尾仲さんのモノクロプリントをじっくり味わえた。「街道」以外でまとまった展示は久しぶりだ。というか考えてみると、むしろ「街道」でしか尾仲さんの個展を見たことがなかったかもしれない。
今回は中国の出版社「imageless studio」による復刻版「Slow Boat」出版記念。同作のリプリント約40点を前期と後期に分けて展示している。カラーに移行して久しい尾仲さんのモノクロプリントを見られる貴重な機会だ。新作ではないとはいえ、あの「Slow Boat」を改めて焼き直しているので必見の展示だと思う。
それにしても尾仲浩二の旅写真は見れば見るほどアノニマスで時代性を超えた写真に見えてしまう。それはカラーでもモノクロでもそう。何でだろうか。どの時代、どの土地を撮っていても、それらに引きずられずに唯一無二の尾仲写真になっている。まあ、それでも看板や人や街並みを見れば否が応でも時代は写っているんだろうけど、それが問題ではないというか。だって、20年前の「Slow Boat」を今見ても、昔はこうだったよねっていうより、ああまだこんな場所あるよねって言いそうなんだよ。もちろんもう無い景色もある。そうなんだけど、どちらかというと、「時代と共に失われた風景」とかではなくて、なんだかんだで、「ずっとありそうな場所」「残ってそうな景色」っていうのが写ってる気がする。それが尾仲写真の魅力なのかなって。
それと今展の目玉と言えるイベントは、あの蒼穹舎の太田通貴さんとのトーク。公の場で話をすることがきわめて少ない太田さんの超貴重なトークとあって、プレスリリース前にほぼ満席。間に合わなかった方はそれこそ臍を嚙んだことだろう。恐縮ですが、私はなんとか予約して、ありがたくも拝聴できました。や、最高でしたよ、ほんと。太田さんだけでも貴重なのに、内容がまたスーパーレアだった。お互いの記憶違いのツッコミ合いも爆笑だったけど、当事者しか知らない写真史的な話も驚きの連続だった。太田さんと尾仲さんの写真集製作の秘話や、セレクト方法の違いとか。具体的にはここでは割愛しますが、酸いも甘いも嚙み分けた写真界にはなくてはならないお二人の濃密トークでした。音声の再放送だけでもお金取れるレベルだね。あと尾仲さん持参の街道の歴史を物語るDMアーカイブが素晴らしかった。これだけで飯三杯いける感じ。
かく言うわたくしはトーク後の歓談で「浦霞」をグラス3杯ひっかけてベロベロで帰りましたとさ。
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