鴻池朋子「Little fur anger」@ Gallery KIDO Press(3331 Arts Chiyoda)

3331アーツ千代田内にある「ギャラリーキドプレス」で鴻池朋子さんの版画を拝見した。鴻池さんの作品を見るのは初めてだった。キドプレスは半分が工房で、半分が展示スペースになってる。とてもコンパクトなギャラリーだ。今年で15周年ということらしい。以前は清澄白河にあって、2015年に末広町に移転している。

今展ではカービングという版木作品とドライポイント技法の銅版画の二種類を展示していた。版画を発表するのは初めてとのこと。木版用の版木をそのまま作品にしているダイナミックなカービング作品も素敵だったけど、気になったのはドライポイントの方だった。朝日新聞朝刊の朝日歌壇俳壇という連載の挿絵「どうぶつのことば」の中からご本人が選出したもの。連載を引き受けた時は鉛筆のドローイングにするつもりだったが、新聞の挿絵としてあまりにもつまらなく見えて、同じ「刷る」ものの方がしっくりきそうだと銅版画にしたそうだ。

モチーフは蜂やウサギ、毛虫などの昆虫や動物だ。ドライポイントならではの滲んだ線描写と、黒と青のインクを用いた2回刷りによるわずかなズレを活かすことで、ふわりとした産毛の質感を表現している。じーっと見つめていると本当に毛が揺らいでくるようだ。薄っすらと青味がかったトーンも美しい。

中でも「横たわる獣」はお気に入り。何かの幼獣と思しき姿は、毛むくじゃらで、ちょろりと尻尾を生やし、仰向けに身体を縮こませ、やや上目づかいでこちらを見ている。野生の険しさを漂わせながらどこか愛嬌がある。他が実在の動物や昆虫をモチーフにしてるのに、これだけ「獣」って、ざっくりしてるのも面白い。挿絵の中には、他にも不特定な生き物は登場してたのかちょっと気になる。

別件が終わった後に寄っただけだったけれど、良いギャラリー、良い展示が見られた。これを機に今後の企画展も見てみたいし、鴻池さんの作品についてももっと知りたくなった。