楽しみにしていた柿崎さんの個展に足を運んだ。馬車道の展示以来だから約3年振り。
アオモリとアノニマスを組み合わせた造語 ── アオノニマス。とても響きのいい美しい語感で、素晴らしいタイトルだと思う。そこに毎回、漢字一文字が続く。今回は「廻」。どの写真も渾々として尽きることなく、沸々とたぎる根源的な廻りを捉えているようで、ひたすら見ていたくなる。
じっと見つめていると、青森の何処かだと知りながら、ここは一体どこなのだろうと考えつつ、やがてここがどこかは気にならなくなっていく。柿崎さんの写真の不思議な匿名性だ。
柿崎さんの写真はとても深度は深い。目の前にある土地 ─ 土壌、淡水、海水、鉱物、大気、草木 、微生物 ─ と対峙することで、青森が青森になる前の、さらにまだ地名らしい地名が付く前の、さらに人の営みが始まるずっと前の太古の生態系を想像させる。
同タイトルの写真集も良い。柿崎さんにとって初の綴じ製本。既刊の2冊はいずれもスクラム製本で綴じられていなかった。これはこれで良かったけど、やはり造本のしっかりした写真集は美しい。サイズ感といい装丁といい、写真の並びといい、どれを取っても秀逸。
裏表紙にも貼られている写真がなんとも不思議で、何かに見えて何にも見えない。まさにアノニマスな存在。さらに20〜24頁の流れは凄みがあり、この一冊の肝になるシークエンスだと思う。
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