待ってましたの染谷さんの写真を最終日に拝見してきた。今回は35mmのみでまとめられていていた。スクエアからの移行は進んでいるだろうなと予想はしていたけれど、予想以上に完成されている印象だった。シリーズとしてはまだ枚数が足りないとおっしゃってはいたが、35mmがしっくり来ているの間違いなさそうだ。
何度も言うようだけど、染谷さんの写真の魅力は「残滓感」にあると思っている。「灰汁」「渋み」と言い換えてもいいかもしれない。それでいて、ため息が出るほどプリントは美しく、銀塩の愉しみが凝縮されている。粒状感やブレなどに走らず、あくまでクリアなファインプリントでありながら、どこか引っ掛かりがある写真になる。とても稀な写真家ではないだろうか。
今回の展示では、さらに進んで、気負わず、奇を衒わず、狙わず、決めず、すうっとカメラを向けて、さっと撮っているようだった。以前はもう少し「エグ味」を感じる写真も多かった印象だったけど、そういう表向きな強弱は影を潜めていた。
染谷さん曰く、そういうあざとさのようなものから離れてみたくなったそうだ。年齢や身体的な条件が変化するにつれ、自然と「何でもない写真」へと向かわせているのかもしれない。何でもなさというのは写真の醍醐味であり、ゴールの見えない道なき道とも言える。
そもそも写真自体に答えを求める必要もないし、答えを求める意味もない。ただ目の前に在る光景。ただそれだけで十分ではないか。そう納得させてくれるような展示になっていた。
35mmに移行しても、気負いがなくなっても、距離感が変わっても、本質的な染谷さんの魅力が損なわれることはなく、むしろ研ぎ澄まされてきた感すらある。また新たな領域へ誘ってくれそうで、これからも楽しみでならない。
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