
小谷村の強度のある写真に見入った。信州にある小さな集落の4年間の記録。生きること、死ぬこと、山との共存、命の循環が静かに力強く編まれていた。
野村恵子さんの展示を見るたびにいつも驚かされるのが、プリントサイズや額装方法、展示構成の巧みさだ。サイズや額装、展示位置に写真家として意思が込めらている。もちろん今回は、キュレーターの菊田樹子さんの手が入っていることもあるけれど、ご本人で構成された展示でもその印象は変わらない。いつも強くてうまいなと思うのだ。
菊田樹子さんの見事なキュレーションと、野村恵子さんの展示に対する鋭い勘とが合わさって、立体的に観賞できる空間になっていた。大小様々なサイズ、垂直水平に設置された写真と、そっと添えられたテキストがリズムを生んで、視線が気持ちよく動く。さらに火祭りや猟場の映像、木霊する音響が場の空気を研ぎ澄ましていた。映像と音響は微妙にインターバルをとっていて、それが立体感を演出していた。
例えば、火祭りでひしめく男衆の映像を見ていると、背後でパンっと猟銃が鳴り、思わず振り返る。雪山の猟場の映像を見ていると、火祭りの映像が起ち上り、男衆の人熱が伝わってくる。という具合に、自然と行きつ戻りつしたくなる仕掛けになっていた。もしかしたらこれも循環を意識してのことかもしれない。
この展示は来て見て空間に身を置いて浸ってみないとわからない内容だと思う。フィジカルとしての写真の魅力を体感でる素晴らしい野村恵子さんの個展だった。

コメントを投稿するにはログインしてください。