川田喜久治 影のなかの陰 @PGI

2018年8月27日は、川田喜久治さんがInstagramに初投稿した日で、タイムラインが騒つきどよめいた日。初めは半信半疑、日を追うごとに確信に変わり、ある日を境に確証を得た。それにしても川田喜久治さんがインスタをするなんて誰が予想できただろうか。川田さんはいつも自分の安易な予想を軽々飛び越えてくる。いつも自分の予想を良い意味で裏切って欲しいと期待を膨らませているのに、その期待値の遥か上をいく。

川田喜久治はこの2年、毎日3点ほどの写真をインスタグラムにアップし続けています。それらの写真にコメントが書かれることはほとんどないまま、無言の「いいね」がつけられていくその様を、川田は「魔物」と表しています。インスタグラムをはじめ、ソーシャルメディアでアップされた写真は、タイムラインという特殊な空間に彷徨いますが、川田は日々撮影した写真をアップするとともに、プリントにしてまとめています。

PGIウエブサイト, 同展覧会ステートメントより

まさに私も「魔物」の一人。無言になってしまうのは、川田さんにコメントを書きたくてもどう書いてよいかわからないから。いいねをしてしまうのは、写真を見た瞬間、衝動的にそうしてしまいたくなるから。それくらい私にとって川田喜久治さんの写真は特別だった。

季節や時代が落とす陰の不明には背筋が寒くなるし、現実か、夢かとおもえるような光景のなかを迷走してきた。そして、突然の同時性に唖然と立ち止まることもしばし。まぎれもない自分が翳のなかでイメージという誘拐事件に巻き込まれている。しかも、あのハート印の「いいね」を繰り返す見えない人たちの呪文のような声援は、日々の光の謎の奥へと探索をうながしてくる。

PGIウエブサイト, 同展覧会, 川田喜久治のメッセージより

多重露光を用いた手法は他のシリーズでも見受けられ、川田喜久治さんの真骨頂ともいえる手法だ。川田さんが表現しようとしている 時代時代に潜む危機感やカタルシスは、この多重露光との相性が良い。多重露光を使う必要性がある写真家は川田さん以外すぐに思い浮かばない。

今展のタイトルは「影のなかの陰」とあり、よくよく写真を見ていくと、カラー写真の中にネガ像が潜んでいるものがあり、様々な漢字で表現されている「カゲ」という言葉と整合している。影、陰、翳、そして景。何が表で裏なのか区別なく相即不離な状態を写しだしている。タイムライン上で見たつもりになっていたが、やはり画面上では細かなところは観ていないのだなと思った。だからこそ細部をじっくりと追っていける展覧会のプリントには大きな意味がある。

PGIの展示は圧巻、圧倒、圧勝。諸手を挙げて白旗を挙げざるをえなかった。イメージの強度、プリントの品質、壁面の密度、どれをとっても強烈だった。もう一回観に行きたいな。