第31回 写真の会賞展 @ギャラリープレイスM

第31回写真の会賞は、野村浩さんの書籍『CAMERAer ── カメラになった人々』、それに関連する展覧会『NOIR “and “Selfie MANBU(POETIC SCAPE)』と企画展『暗くて明るいカメラーの部屋(横浜市民ギャラリーあざみ野)』と、一連の『CAMERAer』関連作での受賞となり、特別賞は今年の3月に逝去された須田一政さんの『日常の断片』だった。

須田さんの特別賞は納得。『日常の断片』は最期のカラー作品、集大成に相応しい写真集で、モノクロとカラーにそれぞれ独自の眼を併せ持つ偉才なのだと実感した。

野村さんの『CAMERAer』関連が写真の会賞を受賞したことは、ファンとしてとてもうれしい。しかもマンガ形式の写真論というか、写真論形式のマンガが受賞したことはとても画期的ではないかと思う。

『CAMERAer』は、スヌーピーでお馴染みの『PEANUTS BOOKS』の世界観を取り入れた3コマ漫画だ。マンブくん、カメラドッグ、カメラバード、モスキートーンなど愛すべきキャラクターを媒体にして、核心を突く写真論が展開されている。3コマでオチがないことも実に写真的で、王道の写真史や純粋な光画的な視点をふんだんに盛り込み、読めば読むほどに、じわじわと写真の旨味を味わえる本になっている。

コツコツと展示と作品集を積み重ねながら、2018年に『CAMERAer』を上梓し、新春にあざみ野のキュレーションを経た今、何かしらの写真賞を受賞してほしいなと願っていた。それは、さらなる飛躍とステップアップを期待しているのもあるけれど、何より賞レースであろうが何であろうが、とにかく狭い写真界の俎上に上がりさえすれば、一部のファンに止まらず、野村さんの作品が世に広く評価されると信じているから。

写真への眼差し、 巧みなアウトプット、展示や作品集に昇華させる確かな力量、そして過剰なまでのサービス精神など、写真の核心を突っつく作品群は見事というほかない。写真界に一石を投じるどころか、ひとまず懐石をいただけて、時に化石が発掘され、雨垂れが石を穿ち、いずれ隕石すら落ちる。野村さんの作品にはそれほどの強度とエグい角度がある。これからも遠慮なく、そして抜け目なく活躍してくれたらうれしい限り。

そう、今回の写真の会賞展。須田さんと野村さんがそれぞれ個別に展示するだろうと思ってたら、良い意味で裏切られた。もう、野村さんにしかできない奇跡的な融合展で、須田さんが時にマンブ君に見えたり、須田さんの写真のオマージュというかパロディというか、合作というか、初めての共同作業というか、言葉にならない楽しさだった。

それに、最高だったのが、限定フリーペーパーの『すだ式』。これは傑作だった。あんまり頻繁にいい意味で裏切り続けられると、見る方もかなりカロリーを消費するので困ってしまう。