井津建郎写真展「Eternal Light -永遠の光-」@ZEIT-FOTO SALON

京橋のツァイトフォトサロンで井津建郎さんの個展を観に行ってきた。

聞きしに勝る極上の銀塩プリントだった。

実はツァイトは初めて。日本で最古参の商業ギャラリーということは知ってはいたものの、気になる企画展もなんとなくスルーしてしまっていた。そこに井津建郎さんの個展開催が目に止まる。しかも、国内ではなかなかお目にかかれない銀塩作品とくれば、もう見に行くしかないだろう。

井津さんはニューヨーク在住の写真作家で、プラチナパラジウムプリントは世界的に定評がある。以前、御茶ノ水のギャラリーバウハウスでプラチナプリントを拝見したことがあり、壮大で美しいプリントに息を飲んだのを覚えている。

今回の銀塩も素晴らしかった。インドを二年以上掛けて丹念に撮影したシリーズで、一枚一枚がドラマチック。ダイナミックレンジの広いバライタプリントにうっとりする。土着の死生観を追ったドキュメンタリーであり、極上のファインアートだと思う。

とりわけ気になったのが、ガンジス河岸の火葬の写真。葬儀の形式はその土地の風習を如実に表す。モノクロの炎に自然と引き込まれた。

予算があれば購入したいプリントがあった。おそらく国内の販売価格はかなり抑えられているはずだ。それでも、残念ながら手が出なかった。またいつか国内での展示があれば、ぜひ検討したいと思う。これは巡り合わせというものがあって、予算だけでもないんだけど。

ちなみに、奥様の由美子さんもプラチナプリント作家であり、その繊細なプリントワークはご主人を凌ぐともいわれている。実際に「Noir」と「Blanc」のシリーズを初めて見た時は、しばらくその場を離れられなくなった。プラチナならではの連続階調を堪能するにはこれ以上無い作品ではないだろうか。

実はその奥様のプラチナプリントは一年ほど前に購入させていただいた。プラチナは自然光に映えると聞いたことがあるが、まさにその通りで、カーテン越しのプリントはいつまでも見ていられる。

いつかご夫婦のプリントが揃う日が来たらうれしいな。

 

モノクロプリントは焼き魚みたいなもの

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自宅でシシャモを焼いてほおばったり、定食屋で塩サバをつまんだりした時の、あの身にも心にも染み入るような幸福感。もう堪らない。焼き魚大好き!

銀塩のモノクロプリントって、自分にとっての焼き魚みたいな存在だったりする。家で焼くシシャモはさながら暗室作業で、定食屋の塩サバは観に行く展示とも言えなくもない(失礼)。同じ魚料理でも、刺身や寿司とかの感じではなくて、やっぱり焼き魚がしっくりくる。メーラード反応で旨味が増した感じの方が近い気がする。

なんの話だか分からなくなってきたし、また時間がたったら、「モノクロプリントって、目玉焼きみたいなもんだよね」とか言ってそうだけど。

さて、今月、来月に食べたい焼き魚の数々はこちら(爆)。

下瀬信雄「結界」@銀座ニコンサロン

恥ずかしながら、下瀬信雄氏を知ったのは、今回の第34回土門拳賞を受賞してからのこと。氏は山口県萩市で写真館を営む傍ら、4×5判にモノクロフィルムで独自の視点で萩を撮り続けている。それも途方もないキャリアである。77年にはすでに銀座ニコンサロンで最初の展示をされている!

土門拳賞の一報を知り、こんな方がいらしたのかと驚いた。早速写真集「結界」を求めた。いわゆる風景写真とは違う。なんと言ってよいのかわからないけれど、「そう容易くないよ」、「知った風な口を利くもんじゃないよ」。そう言われている気がした。自然に媚びず、軽々しく礼讃せず、そんな感じだろうか。

今回の銀座ニコンサロンは受賞記念としての展示だった。精緻にとらえられたモノクロのプリントが静かに迫ってくる。もっと早く知っておきたかった。それでも遅ればせながらプリントを拝見できてよかった。

初めてお目にかかった下瀬さんは、とても穏やかで、どこまでも自然体で、少し照れ屋な一面もある魅力的な方だった。感じるのは謙虚さ。だからこそ、慣れ親しんだ萩を、「狎れる」ことなく、畏敬の想いで写真に収め続けることができるのではないだろうか。

最後に無理を言ってあるプリントを注文させていただいた。畏敬の想いを知る手本になればと思う。