Old Tjikko – Nicolai Howalt

最近の中で特にお気に入りなのがこれ。デンマーク人のヴィジュアルアーティスト、ニコライ・ホワルトの『Old Tjikko』。スウェーデンで発見された世界最古の木と謳われている「Old Tjikko」を題材にしたもので、その樹齢なんと、約9600年とのこと!

その古木を、ホワイトは一枚のネガにおさめ、97種類もの印画紙に焼き付け、ひとつの作品集にまとめている。ほぼすべてが期限切れの印画紙で、1930年代の印画紙も含まれている。唯一期限前なのが、最初の0番として載っている2020年期限のRollei Vintage 111で、2019年にプリントされている。

すべてのイメージは同じ一枚のネガで焼いたものではあるものの、本当に同じネガなのかと疑うほどに一枚一枚が表情豊かで、めくってもめくっても見飽きない。世界最古の木を、年月が経過し期限切れになった印画紙に定着するという行為にも納得感がある。

世界最古の木「Old Tjikko」。その古木を収めた一枚のネガ。そのネガをポジ像に定着した期限切れの印画紙。3つの極限の素材を掛け合わせ、シンプルなフォーマットで壮大な叙事詩を吟じているようだ。あらゆる「時間」を思い巡らせつつ、夜な夜なページをめくるのが楽しくて仕方がない。

何年か前まで巷をにぎわせた「フィルムかデジタルか論争」は落ち着いた感もあり、いまでは意味をなさなくなってきているし、できるうちは好きな方か、その両方やればいい。

ストレートフォトもファウンドフォトも、コラージュも、暗室ワークも、デジタル加工も、古典技法も、インクジェットも、何であろうが、目指す作品の完成度を高めるための手段ならば、どれを選んでも構わないと思うし、もちろん好き嫌いで選んでも別にいいんじゃないだろうか。

写真というメディウムが現代アートへの傾倒していく、もしくは吸収されていくことことが論点になることもあるけれど、ホワイトは、そういう流れを軽くいなしている。「その論点、自分には関係ないし」と言い放ち、「その作品に相応しいものを使うだけじゃない?」と投げかけているかのようで、愉快でならない。