マーク・ロスコ《シーグラム壁画》@DIC川村記念美術館


DIC川村記念美術館はサイ・トゥオンブリーの企画展がメインだったけど、想像以上にマーク・ロスコがよくて、トゥオンブリーとは別稿でまとめることにした。

マーク・ロスコの《シーグラム壁画》。この作品のために用意された部屋が「ロスコ・ルーム」で、7点の壁画がぐるりと囲む作品空間になっている。ロスコの壁画を見られるのは、世界でも4か所しかない。「ロスコ・ルーム」と名のつく場所は3か所で、ロンドンのテート・ギャラリー、ワシントンのフィリップ・スコレクション、そして佐倉市のDIC川村記念美術館だ。もうひとつは、「ロスコ・チャペル」と呼ばれ、ヒューストンのメニル・コレクションにある。

まあ、ウィキペディアに載ってそうなことはその辺にしておいて、実物を見ての感想を。

ロスコ・ルームは美術館の一階の最奥にある。出入口は衝立のような壁を中央に配して二手に分かれている。警備員が張りつく右手から入ると、部屋は横長の七角形を成し、壁ひとつに1点ずつ壁画がかけられていた。どれも高さは2メートルはゆうに超える。ただ大きさに圧倒される感じはしなかった。というのも、照度をかなり抑えたスポットライトで壁画を照らしているので、最初は薄ぼんやりと赤褐色の壁が確認できるくらいにしか見えなかったからだ。

しばらくして、少しずつ目が慣れて瞳孔が開いてくると、7枚の壁画がぐぐっと立ち現われてきた。薄暗さには理由があったのかもと思えた。作品保護の意味もあるかもしれないが、どちらかというと壁画だけを際立たせるより、部屋全体をひとつの作品としてとらえられるようになっているようだ。部屋の中にどっぷりと浸かるような感覚になる。

それから一枚一枚をじっくり観たり、一枚の中の細部に目をこらしたりして、矯めつ眇めつ観賞する。そしてまた、全体を見渡して、空間に浸るように佇んでみる。まったく飽きない。それどころか、見れば見るほど楽しくなってくる。このところ美術品を観ていて湧きあがってくるのが「やべぇ、すげーおもしろい」ってシンプルな感情だ。モランディ以来、久しぶりにそれがやってきた。

この時代の抽象絵画についてそれほどの興味があるわけではないけれど、少なくともマーク・ロスコは、きわめて魅力的に映った。時間が許せばいつまでも居続けたい場所だった。そう、見続けたいというより、居続けたいだ。

DIC川村記念美術館はロスコのためだけにでも再訪したい場所だ。