渡部さとる写真展「demain 2017」@ギャラリー冬青


冬青で渡部さんの写真展「demain 2017」を観てきた。安定の銀塩モノクロプリント。なじむ。年代も写っているものもばらばらで、いろいろ読み解き方があるだろうが、もう、シンプルに「渡部はこれです」と宣言をしたような展示になっていた。写真業界のめまぐるしい変化を周知しながらも、開き直るんではなく、諸々踏まえたうえでこれを出している。取り留めもなさそうでいて、どこか腰の据わった展示だった。

新作の写真集はチャレンジングな一冊となった。普及版とあわせて、冬青としては珍しい特装版もある。渡部さんの思いのたけが詰まったものだ。今ではスタンダードとなった感もある写真集の布張り製本も、冬青となれば特別となる。取次店を通しての流通を旨とする冬青の本は、ダストカバーありきのデザインになる。だから装丁で遊ぶことはまずない。だから、この特装版はISBNのない手売り専用となったようだ。

ただ、今回の写真集で挑戦的なのは、装丁の話だけでなく、むしろ本紙の方だろう。すみずみまでインクで染め上げた「しみチョコ系」とも言える写真集で、表面張力の限界を試すような紙面だ。イメージの周りは余白をなくし、真っ黒な「余黒」仕上げ。よくこんなの成立させたと思う。普通なら企画段階で消えてしまうようなアイデアだし、印刷にこぎつけたとしてもどこかで破綻していてもおかしくない試みだろう。展示同様に取り留めないようでいて、つい引き込まれる。あらゆる写真のオマージュが含まれているようにも見立てられるし、単なる寄せ集めとも取れる。この落としどころのない感じがかえっておもしろい。まったく落とせてないんだけど、なるようになっていて、不思議と全体の調和がとれている。

渡部さとるという写真家、カメラマンは、どうも写真の中間地点に身を置いて活動しているようなところがある。多方面を柔軟に見渡せるようにしながら、自身はその場からそれほど動かない。受け入れるべきは受け入れるが、我関せずも貫ける。東北人の頑なさを保ちつつ、好奇心に身をまかせられる気質。他人に言われなくても自分の立ち位置がよくわかっている。そのうえで継続的にコツコツと挑戦を続けている。なかなか引き合いに出す人物が見当たらない。

渡部さんのワークショップ出身としては、渡部さんの写真や写真集を語るのは暗に避けてきたようなところがあった。どうも身内感覚になってしまい語るだけでも面はゆくて、言葉があまり出てこなかった。6年経ってやっと気負わず話せるようになったのかもしれない。