[写真集]尾仲浩二『Faraway Boat』Kaido Books刊

新作の『Faraway Boat』が届く。表紙を見てすぐにもう傑作の予感が漂っている。最近の写真集ではめずらしいクリアPP加工の表紙。表紙の下から3分の2に雨に滲む傘さす女性の写真が配置され、上部の白地に銀箔押しで縦組みの題字が控えめに浮かんでいる。

パラっとめくるとインクの匂いが立ち昇り反射的に鼻腔が広がる。1枚目の写真は表紙にも使われている傘をさす女性。表紙の写真はクリアPPでウエットな質感だったのに対して、本紙は抑えめでマットな印刷。同じ写真でも随分と印象が変わる。

本紙の写真はインクがしっかり乗っていて中間調がすこぶる良い。低コントラストでありながらカリッと芯のある尾仲さんのモノクロだ。

ページをめくるほどに、写真の並びが良さが際立つ。一枚一枚が、並びが、流れが的を射ている。淀みなく、でも通り過ぎず、確かな見応えがある。滑らかに引っ掛かりながら見ることができる。

尾仲さんはこれまで30冊もの写真集を世に出してきた。凄まじい冊数だ。すべてを見たことはないから、はっきりとしたことは言えないけど、この『Faraway Boat』は尾仲さんのモノクロの写真集の中で、傑作中の傑作になり得ると思う。

例えば、この写真集は、印刷が良いんだよね、構成が良いんだよね、この写真が強いよね、並びが良いよね、装丁が良いよね、とか、1つや2つの要素が目立つことはあっても、すべての要素が強くて、かつバランスが良いものはなかなか出会えない。新作『Faraway Boat』はすべての要素がバランス良くまとめあげられている。

ここまでで、まだ第一印象に過ぎない。これから時間をかけて、また違った印象になるかもしれないけど、それはそれで楽しみでもある。来年は各所で展示も予定されているようだし、楽しみが増える一方だ。