泉大吾さんのモノクローム

東急田園都市線「池尻大橋駅」から徒歩3分の古典技法を主に取り扱うギャラリー「Monochrome Gallery RAIN」にお邪魔して、泉大吾さんの写真展を観てきた。5月の予定がコロナの影響で10月に順延になっていた。何はともあれ開催されて良かった。

泉さんの写真はモノクロというよりモノクロームって言い方がしっくりくる。略さず長音がちゃんとついて滑らかな感じ。あくまでイメージの話。

今回もギャラリーオーナーさんのセレクトとのこと。特にオフシーズンのビーチの写真が、あまり泉さんが撮らなそうで、選ばなそうな被写体で、とても新鮮だった。プリントも素晴らしい。

リヒターにインスピレーションを得たというベンチの写真も興味深かった。泉さんの写真は、ことさら美術史の文脈を意識するような作品でも、プロジェクトでもなく、強いて言えばライフワークのようなものだろう。

泉さんの作品が面白いのは、意識的にアートの文脈を踏むわけではないが、ファインプリントとしての銀塩を突き詰めながらも、大好きな旅を楽しむ中で出会った絵画や写真に影響を受けて、派性的に美術に興味を持ち、寄り添っていることだ。

リヒター然り、ヴァナキュラー写真然りで、その影響が作品の前面に出るのではなく、写真に染み込み混ざり合い、ひっそり裏に隠れ、時に垣間見える。

一枚の写真を前に、語るに尽くせない状況というのを、泉さんらしいアプローチで作りだしている。それも「好きだから」というシンプルな動機からくるものだ。これはとても豊かで素敵なことだと思う。写真は極めて言語化しにくいけど、抽象的でも良いから絞り出してみて言葉にしてゆくのは相当面白い。