渡部敏哉さんの超現実世界にフルダイブ!

ようやく渡部敏哉さんの写真展「Somewhere not Here」を観にポエティックスケープへ。先行して発売された写真集は水墨画の掛け軸を想起させる仕掛けで紙の表現を拡張する素晴らしい一冊だった。写真集と写真展はまったく別物とよく言われるけれど、道すがら展示はどうなるのだろうといろいろと想像を膨らませていた。

いざギャラリー内へ。展示は極めて定石だった。特別な仕掛けはなく、美しく額装された作品が展示数を抑えめにしてバランスよく配されていて、一点一点をゆっくりと観賞できる。お陰で今まで以上に一点ずつにフォーカスして没入することができた。観るにつれどんどんと額の中へ入り込んでいける。

これまでの同シリーズの展示では、彼方と此方の間(あわい)を行き来したり、こちら側からあちら側を覗き込むような感覚になっていた。今回は少し座標がずれてあちら側に足を踏み入れてるような印象を持った。これは長年見続けているせいで、勝手に作品の展開を自分なりに進めてしまっているかもしれないが、むしろ観賞者の想像力で作品世界を進展させたくなる懐の深さがあるとも言える。もっと妄想させてもらえれば、汗だくでベッドから起きあがり現実の世界に戻った気でいたけど、実はまだ向こう側に居るみたいな違和感も覚えた。これは写真集ではついぞ得られなかった感覚だ。

アニメのソードアートオンラインでは仮想空間に五感が伴うフルダイブをして現実世界に戻れ(ログアウトでき)なくなるという展開になる。渡部敏哉さんの写真展では「超現実世界」に視覚がダイブしていくような体験ができる。もちろんちゃんとログアウトしてこちら側に戻ってこれるわけだけど、ふとこんな超現実空間にフルダイブしてみても面白そうだと思ってしまった。万が一ログアウトできなくなったらその時はその時だ。