[写真集]渡部敏哉 SOMEWHERE NOT HERE に驚く

渡部敏哉さんの待望の写真集が年末に届いてまだ興奮冷めやらず。表紙も中身もすべてが驚きの連続。ともすれば、ばらばらに破綻してしまうかもしれない仕掛けが、からくり人形のように無駄なく精緻に噛み合い、類の無い集散離合の世界を作り上げている。

最初に思い浮かぶのが水墨画。渡部さんの写真の魅力のひとつに、主体を意識させつつ、その主体が滲んで霞んでいくような儚さにある。これは水墨画を観る感覚に近い。この写真集は随所に紙が折り込まれていて、絵合わせパズルようになっている。元のスクエアフォーマットの写真が大胆に折られて、見切れたり隠れたりしている。中でも縦長にマスキングされた写真は水墨画の掛け軸を想起させる。

余白や白紙の使い方も絶妙で、写真と写真の関係性が捲り方でどんどん変化していくのがとても面白い。程よい余白を取ったかと思えば、余白なしで地続きになってるものもある。観音開きに折られたページも開くと白紙だったりする。元のスクエアフォーマットを思い切って崩しているにも関わらず、「SOMEWHERE NOT HERE」シリーズの幽玄深淵な世界観を良い意味で拡張して、さらに集散離合の世界も獲得してしまった。

あちら側とこちら側、彼方と此方、並行世界、もしくはその境界線というのは、パキッと分かれているわけではなくて、同時空に存在しているのではないか? この写真集を読みながらそんなことを考えた。大きい風船(彼方)の中に小さい風船(此方)があるようなイメージ。平たく言えば宇宙の中に地球があるような感じ。此方に居るということは、同時に彼方にも居ることにもなる。妄想が止まらない(笑)

一枚画では感じ取れないこの写真集ならではの体験。幾つものイメージがひとつになったり、ひとつのイメージが幾つも散り散りになったり。それでいて全然わちゃわちゃせずに、すべてが腑に落ちる。「そうそう、そういう摂理だよきっと」と納得してしまう。

結局のところ何よりシンプルに美しい写真集だというところに戻ってくる。読めば読むほど目と指がやたらと喜んでしまう。写真展と写真集は別物とよく言われるが、これほどまでに別物になっていながらも、最高に幸せな補完関係になっているのも稀なのではないだろうか。早く渡部敏哉さんご本人に、この感動を伝えたい。