染谷學「六の舟」

残滓感のある写真 ── 染谷さんの写真を常々そう思っている。銀塩の極みと言えるファインプリントから伝わる微かな残滓。一点の曇りもない美しいプリントの奥底に見え隠れする沈殿物のような何か。観るたびにじわじわと伝わってくる。以前、にごり酒に例えたことがあるけど、別の言い方をすれば、そのまま飲めるほどの澄んだ清流にも淀みがあるのと似た感じ。それが私なりに解釈している染谷さんの写真。

「六の舟」は文字通り津々浦々の港町を撮り歩いた写真で、この3年ほど撮り溜めたものを展示していた。ハレとケで言えばケ。特別なものが写っているわけではないし、押しも強くないのに、プリントの密度が高くて比重も大きく、どっしりとした感じがした。今まで見た中でも特にそう感じた。このシリーズはこれで一区切りとのことだったので、それが影響しているのか、それとも一区切りと聴いてしまった自分自身のバイアスなのかはわからない。