高橋恭司さんが視るパリの深層

高橋恭司さんの新作『Midnight Call』がかなり良い。

私が写真に興味を持ってから12年くらいになる。それが長いのか短いのかはわからないけれど、昔に比べれば「みる」力を養わせてもらえていると思っていた。でも、高橋恭司さんの新作を観た時に、ああ明らかにものの見方が違う人だなと愕然とした。一塊の写真好きがこんなことを言うのもおこがましいのだけれど、どうしようもない敵わなさみたいなものを新作の『Midnight Call』に感じた。

これはどれだけ見る目を養おうが辿り着けないであろう境地とうか。世の中を見ている「角度」が違うというより「深度」が違うという方がしっくりくる。世の中をinformationではなくてintelligenceで見ている。目には見えてこない深層を捉えようとしている。それもごくごく自然かつ日常的にな営みとして。そこに高橋恭司さんの怖さがある。

初期からずっと見てきたわけではないし、断片的にしか作品を見てこなかったから、今まで高橋恭司さんに対して明確な印象を持てないでいた。さらに近年は精力的に活動しているとは言い難く、作品を発表する機会も限定的だったから、興味はありながらもあまり追っ掛けて見ることもできなかった。

前作の『WOrld’s End』は30年前の写真を含めたものだったし、新刊ではあるものの新作とは言い切れなかったから、自分にとってこの『Midnight Call』こそが新作であり、本格的に高橋恭司さんの写真に触れているという感触がある写真集となった。それも恐ろしいほどの強度を持ってやってきた。

ご本人がどれほどの気持ちで撮っているかはわからないし、それほど気負ったものでもないのかもしれない。それでも仙人が杖を軽く振りかざすだけで嵐が起きてしまったようなインパクトがあった。全身全霊でなくとも能力の片鱗を見せるだけでも真価を発揮できるというか。ちょっと言い過ぎかもしれないけれど、それくらい今回の新作は魅力的な写真集だった。

それもこれも編集を担当した安東崇史さんに依るところが大きい。後書きのテキストは素晴らしい内容で、目には見えないパリの深層と高橋恭司の写真を見事に接続していて、安東さんのテキストはこの写真集に欠かせない要素になっている。途中の高橋さん本人の詩的なテキストや天袋とじの製本が相まって、作品の理解を深めつつも、ガイドは入り口まで、あとはご自由にどうぞという感じも良い。お言葉に甘えて好き勝手に妄想したり自由に解釈したりして楽しませてもらっている。